離職と定着

社員の離職コストを自社の数字で整理する

公開 2026.09.25更新 2026.09.25読了 約8分
給与台帳と勤務表を見比べながら、欠員の期間の残業を数える経理担当者
見えない費用を、費目に分ける。
Editor

ナナトリ編集部が、ナナトリを運営する株式会社SECRET MEDICINE 代表取締役 吉村 貴成の知見をもとに作成しました。関連会社(株式会社3SMILE・介護と看護の事業所)で採用と定着に向き合ってきた経営者の立場からの記事です。制度の記述は厚生労働省などの一次資料で確かめています(確認日 2026-09-25)。

「1人辞めると数百万円の損失」という数字を目にすることがあります。民間の試算としてはありうる金額ですが、自社にそのまま当てはまるとは限りません。離職の費用は、会社ごとに記録から積み上げてはじめて、会議で使える数字になります。費目の分け方と、よく起こる数え間違いを、整理シートの形で示します。

離職コストとは、社員1人が辞めたことで会社が負担する費用の合計です。新しい人を採るための求人費、入社の手続きや受け入れの時間、仕事を教える時間、欠員の間の残業や外注、引き継ぎにかかる時間が主な中身になります。厚生労働省などが示した標準の計算式はなく、民間各社が前提を置いて試算しています。自社で出すときは、費目ごとに金額と根拠を並べ、分からない費目は空欄にしておくことが、数字を信用してもらう条件です。

費目は5つに分ける

離職にかかる費用は、時系列で5つに分けると漏れにくくなります。

費目中身拾える記録
1. 求人求人広告、紹介手数料、面接の時間請求書、面接の予定表
2. 受け入れ入社手続き、制服・備品、アカウント発行購入記録、手続きの担当時間
3. 教育同行・研修で教える側の時間勤務表、研修の記録
4. 欠員残った人の残業、派遣・外注、断った仕事給与台帳、請求書、受注の記録
5. 引き継ぎ辞める人と後任の重なり、取引先への説明勤務表

時間は「人数×時間×時給」で金額にします。時給は給与台帳から、社会保険の会社負担分を含めるかどうかを先に決めておきます。

離職にかかった費目を書き出した整理シートと鉛筆
金額が分からない費目は空欄のままにして、根拠のある数字だけで合計を出します。

整理シートの書き方

シートは4列で足ります。費目、金額、根拠(どの記録から拾ったか)、二重に数えていないかの確認欄です。

費目金額根拠重複確認
求人広告媒体の請求書
面接の時間予定表×時給
教える側の時間同行の勤務表×時給残業と重ねない
欠員の残業給与台帳の残業代教育と重ねない
派遣・外注請求書残業と重ねない

金額が分からない費目は空欄のままにします。「だいたいこのくらい」で埋めると、根拠のある数字まで疑われます。空欄の数は、次の会議までに記録をどう取るかの宿題になります。

二重に数えやすい所

整理していると、同じ費用を2回数えてしまうことがあります。代表的なのは次の3つです。

この確認を省くと、金額は大きく見えますが、会議で1つ突っ込まれると全体が崩れます。

早期離職と、中堅の離職は分けて見る

入社から数か月で辞めた人は、求人費と教育の時間がほとんど回収されないまま失われます。一方、何年か勤めた人が辞めると、教育の費用は回収済みでも、引き継ぎや、取引先・利用者との関係といった金額にしにくい損失が出ます。

1年分の退職を、勤続の長さで2つか3つに分けて整理すると、自社でどちらが重いかが見えます。早期の離職が多いなら、求人の書き方や入社後の最初の1か月を。中堅の離職が多いなら、任せ方と評価を。採用費と定着の記事で、辞め方の種類ごとの打ち手を書いています。

数字を、採用の予算の話につなげる

離職の費用を出す目的は、金額に驚くことではありません。採用費を増やすか、辞めない仕組みに回すかを、同じ表の上で比べるためです。採用経路ごとに1年残った人の数が分かれば、どの媒体に費用をかけるかの判断にも使えます(採用経路別の定着)。

ナナトリの会議用のまとめは、入社・退職の件数と勤続、辞めた時の部署、入社のきっかけ別の定着を、名前なしで出します。費用の整理シートと並べると、「どこで人が抜けて、いくらかかっているか」を1枚で話せます。ストレスチェックも合わせて始める場合の費用は費用の記事を見てください。

出典・参考(確認日 2026-09-25)

よくある質問

離職コストの公的な計算式はありますか?

厚生労働省などが示した標準の計算式は見当たりません。民間の調査会社や人材会社がそれぞれの前提で試算を出していますが、前提の年収や欠員期間が違えば金額も大きく変わります。自社の記録から費目ごとに積み上げる方が、会議で使える数字になります。

欠員の間に売上が落ちた分も入れるべきですか?

入れるなら、根拠を書き添えてください。介護の利用枠を減らした、受注を断ったなど、記録で確かめられる分だけにします。推測で大きな金額を入れると、数字全体が信用されなくなり、会議で使われなくなります。

早期離職と、何年か勤めた人の離職では、どちらが重いですか?

一概には言えません。早期離職は求人費と教育の時間がほぼ回収されないまま失われます。勤続の長い人の離職は、引き継ぎや取引先・利用者との関係など、金額にしにくい損失が大きくなります。費目を分けて並べると、自社でどちらが重いかが見えます。

社員の名前が出る資料を会議に出してもよいですか?

費用の整理は、部署と勤続と時期が分かれば足ります。個人名を出す必要はありません。辞めた人の事情が特定できる書き方は避け、人数が少ない部署は他とまとめて示すと安心です。

計算した金額は、社員に伝えるべきですか?

経営者と管理者が採用と定着の予算を決める材料なので、社員全体に示す必要はありません。伝えるなら、人が辞めると残った人の負担が増えるので、職場の困りごとを早めに聞きたい、という目的の方を伝えてください。

この記事のまとめ

  1. 離職コストに公的な標準式はない。求人・受け入れ・教育・欠員・引き継ぎの費目に分け、自社の記録から金額を入れる。
  2. 分からない費目は空欄のまま。推測の金額や、民間の試算額をそのまま使わない。二重に数えていないかを最後に確かめる。
  3. 出した金額は、採用費をどこに使うかを決める会議の材料にする。辞めた時期と部署の数字と並べて見る。
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